お楽しみ会で 解決篇(1) プレビュー版2018-07-15(Sun)
▽ 前田 靖奈(アンコ)
地獄は既に始まっていたのだ。
「もし日本代表が勝ったら、逆立ちして廊下を歩いてあげてもいいわっ」
その一言が男子たちのプライドに火を付けた。
前田靖奈(まえだ やすな)は冷静に客観的な判断をしたつもりである。日本が世界で勝てるわけがない。どうせ次の試合で敗退だろう。その日はスカートを穿いてきたが、それも含めて逆立ちしたって構わないと豪語したのだ。だから靖奈は最高に小馬鹿にした表情で充たち男子を煽ってやった。
「んぁんだと? ぉルあっ!?」
ほら釣れた。効果てきめんだ。男というのは単純な生き物である。
「ふんっ」
鼻で笑ってやった。
靖奈が男子たちを煽ったのには理由があった。
彼らは親友・雛子(ひなこ)の顔面にサッカーボールをぶち当てたのだ。わざとではないと主張するが、以前から近くを通ったというだけで怒鳴って威嚇シュートを撃ってきたこともある。ウチのクラスには乱暴な男子が多いのだ。だから雛子の件もわざとに違いない。当てるつもりはなかったと言い逃れしようとしていたが、どいつもこいつも、まったく男らしくない。つい「ヘタクソ!」と言ってしまった。
これに男子たちが反発する。売り言葉に買い言葉で諍いがエスカレートし、最終的に日本男児すべてを敵に回して「逆立ち」発言に至ったわけだ。
「お前スカートのままやれよ! できんのか!? あ?」
クラスのお調子者、夏男(なつお)が牙を剥いてくる。だが自分よりも背が低い相手は怖くもなんともなかった。
「パンツ丸出しだぞー!」
クラスのインテリバカ、冬彦(ふゆひこ)のやつも、もう勝った気でいるらしい。男子って「おめでたいわね」、という気分だ。
「もし勝ったらね! ま、勝てるわけないけどぉ」
「くぬぉお!!」
男子たちは自分たちが虚仮にされたかのように怒り狂った。そんなに球を蹴るのが面白いのだろうか。そんなにお前ら祖国のことが好きだったっけ?
だが豪語した以上は靖奈も引っ込みがつかない。でも、まぁ十中八九、大丈夫だろう。そう踏んでいた。
*
「……………………」
深夜、日本代表が奇跡的に勝利を収める。靖奈は今朝、テレビでそのニュースを知った。
青ざめる。
学校を休もうか、それともスカートを穿かず、ジャージかハーパンで行くか。間をとってキュロットなら文句は言われないだろうか。下に体操着を穿いていけばスカートでも問題はないか? いろいろ考えた。考えた挙げ句に『体操着+キュロットスカート』で行くことにした。
「話が違うだろ! さっさとパンツいっちょになれ! そのまま逆立ちで廊下行ってこいやーっ」
男子たちは冷酷だった。靖奈の顔を見た途端にザマァ顔になって靖奈を取り囲む。
日本代表が奇跡の勝ちを拾ったことで、彼らはお祭りムードだ。ほぼ全員が高笑いしている。特に充は「スカートのままやることを承諾したはずだ」と言ってきかなった。
「その股んとこ繋がってるやつはズルいぞ! スカート脱げ脱げっ!」
確かにあのとき靖奈はスカートでやることは否定しなかったが…。肯定だってしていない…。だがスカートのまま逆立ちなんてリスクを負っても問題ないと頭の中で計算していたのも事実だ。その負い目が女子たちの地獄を招くことになるなんて…。
